終の棲家に

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"「扉一枚でプライバシーが守れる空間をあなたに」 いまから二○年ほど前、こんなキャッチフレーズでマンションが販売された時期があった。 この心地よい言葉に多くの消費者は踊らされたのである。玄関に鍵をかけてしまえば、まわ りはコンクリートで遮断されているから、まさに自分の空間が作れる、プライバシーが完全 に守られる、誰もがそんな気持ちになってしまうのである。実際、現在でもマンションの広 告にこれに似たフレーズは使われている。 断言するが、これはとんでもない誤解である。本来、マンションに住むということは、共 同生活のなかで自分の生活を守っていくという大変な労力と忍耐を要する生活パターンなの である。この原点が抜け落ちて「自分だけの快適空間、周囲をシャットアウトしたプライバ シー空間をどうぞ」などと調子のいい宣伝をしたために、どれほど大きな問題を残したこと いまでも「私が買ったものだから、この空間は私だけのものだ」と主張する居住者が後を 絶たないが、これは明らかに販売会社の説明不足によるものだ。確かに専有部分は購入した 居住者のものである。しかし、一歩扉の外に出た開放廊下、階段、エレベーターなどの共用

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部分は個人の勝手でいじることはできない。日本人がマンションで暮らすようになって久し いというのに、この共用部分の認識が未だに稀薄なのは不思議な話である。 玄関の扉を例に取ろう。扉の内側、個室側は専有部分にあたるので、色が気にくわなけれ ば塗り替えることもできる。しかし廊下側は共用部分である。好みでないからといって勝手 に色を塗り替えることはできない。こんなことも知らない居住者がまだ大勢いるのである。 こうした専有部分と共用部分の認識の甘さゆえに無用なトラブルが後を絶たない。プライ バシーは相互の理解と気配りがあって初めて成立するものなのだ。その理解なくしてプライ バシーもなにもあったものではない。"